アジア人ヘイトを支える日本人が知らない西洋の世界観【黄禍論・人種論】

アジア人ヘイト

今年(2021年)に入って、欧米諸国でアジア人をターゲットとした事件が立て続けに起きています。

  • 2月25日 シアトルの中華街路上でパートナーと歩いていた日本人女性が41歳男性に殴られ、意識不明の重体
  • 2月26日 ロサンゼルス日本人街の東本願寺別院が放火・破壊される(LAタイムズ)
  • 3月15日 ニューヨーク市の路上で20歳男性がアジア系女性に「Go back to China」と言って首筋から液体をかける (CNN)
  • 3月16日 ジョージア州アトランタ 21歳の白人男性がアジア系マッサージ店3軒を次々と銃撃して8人を殺害。うち韓国・中国出身の女性6名。
  • 3月29日 ニューヨーク市で黒人男性が、「F**k you, you don’t belong here」(ファックユー、お前はここの人間じゃない)と言いながら65歳のアジア系女性の腹部を蹴り、地面に倒れたところを踏みつけ重症を負わせた。

65歳を踏みつける映像は、防犯カメラに残されていました。

アジア人へのヘイトは、コロナウイルス後に急速に広がりました。

アジア系を被害者とするヘイトクライム件数は2019年の49件から2020年は122件に増加し(Statista)トランプ大統領がツイッターで #chinesevirus(中国ウイルス) を使い始めると、アジア人に対する人種差別ツイートが激増しました。USAトゥデイ

顔を横一線に切りつけられた男性もいます。

個人的にヘイトを受けた経験はないけれど、NYの知人からはそういう話を聞きます。

なぜアジア系全体への差別が欧米で盛り上がるのか。日本人にはピンとこないヘイトの裏側には、歴史的背景があるようです。

アジア人ヘイトの土台となっている欧米の言論や歴史を調べました。

ご自身の安全を守りたい方は、 NY日本総領事館「ニューヨーク安全マニュアル」が参考になります。

アジア人ヘイトにつながる欧米の思想① 黄禍論 Yellow Peril

黄禍論とは、アジア人への人種差別的な考え方。Yellow Terror(黄色の恐怖)とも言われます。

東アジア人は「災いをもたらす猿」という見方です。

The racist ideology of the Yellow Peril derives from a “core imagery of apes, lesser men, primitives, children, madmen, and beings who possessed special powers”, which developed during the 19th Century as Western imperialist expansion adduced East Asians as the Yellow Peril.

黄禍論は、「猿、劣った人間、原始人、子ども、狂人であり特別なパワーを持った存在、という中核的な幻想」から発し、拡大した西欧帝国主義によって東アジア人が「黄色い災い」と称された19世紀に発展した人種差別的イデオロギーである。(ちゃちゃ訳)https://en.wikipedia.org/wiki/Yellow_Peril

黄禍論のおこりと広まり

黄禍論は1900年前後に提唱された古い考えです。

西欧の植民地支配が東アジアに及んだころ、日清戦争で日本がアジアで初めて植民地支配にのり出したのをきっかけに黄禍論が現れました。

ロシアやドイツが戦争で日本に負けると、黄禍論は欧州全体に広まりました(日露戦争、日独戦争)。

アメリカでは、ゴールドラッシュ(1848〜)以降、中国人と日本人の移民が広がり、仕事を奪われた労働者層からアジア人排斥運動が起きていました。1900年代中頃まで中国人と日本人を対象とした露骨な差別的政策がとられた背景には、黄禍論があると言われています(排華移民法、排日移民法)。(以上の記述はWikipedia(日本)を参考にしています)

アジア人ヘイトにつながる欧米の思想② キリスト教の白黒二元論

Thème n°3 : La vie en Noir & Blanc“Thème n°3 : La vie en Noir & Blanc” by fotoyogiik is licensed under CC BY-NC-SA 2.0

そもそも日本人としては、東アジア人の肌を「黄色」と名づける感覚がイマイチ分からないところです。さらにいえば、「白人」「黒人」という呼称も、正確な肌の色からはかけ離れていると思いませんか?

西欧が「白」「黒」「黄色」と単純化して肌色を分けた背景には、世界を白と黒に分けるキリスト教的世界観があると言われています。

白黒二元論(Black-and-white dualism)から見た世界

(光、昼、善、理性)←対立→ (闇、夜、悪、野生)

白は神の色であり、悪魔に打ち勝ち、世界に神の恩寵と理性を広げていく、という世界観です。西欧の科学主義の土台でもあります。

黄色は黒ほどの悪ではなくとも、白に不純物の混じった善性の劣る色だと認識されることになります。

アジア人ヘイトにつながる欧米の思想③ ブルーメンバッハの人種論

キリスト教から派生して、18世紀の人類学者ブルーメンバッハが提唱した人種論もあります。

File:Johann Friedrich Blumenbach. Mezzotint by F. E. Haid. Wellcome V0000601.jpg“File:Johann Friedrich Blumenbach. Mezzotint by F. E. Haid. Wellcome V0000601.jpg” by Johann Elias Haid is licensed under CC BY 4.0

ブルーメンバッハは、頭蓋骨を分析して人間を5つの人種に分けた人です。

さらに人種に優劣をつけ、あらゆる人間の祖はアダムとイブ(コーカサス人)であり、「太陽光や劣悪な食事」などの環境要因によって退化した亜種が他の人種であると考えました。(Degeneration theory)

ブルーメンバッハは、さまざまな人間集団のなかで「コーカサス」、つまりヨーロッパ人に該当するのですが、それらの人々が「最も美しく」、すべての人間集団の「基本形」で、他の4つはそれから「退化」したものだと書いています。
http://www.zinbun.kyoto-u.ac.jp/%E6%9C%AA%E5%88%86%E9%A1%9E/021011.htm

現代のアジア人排斥運動

1980年代、Japan as No.1の時代には日米貿易摩擦が起き、日本人を対象として排斥感情が高まりました。

現在、経済的に台頭した中国との間に米中貿易摩擦が生じ、中国人を対象として排斥感情が高まっています。

移民労働者、バブル期の日本、経済大国となった中国。歴史は繰り返し、自国の経済的利益を脅かす存在になった時、その国に対する嫌悪が高まります

黄禍論や人種論といったものの見方は、キリスト教的世界観を共有しないアジア人にはわからない感情的・非論理的な側面で、アジア人への排斥感情を後押ししているのかもしれません。

まとめ

もしかすると、読者の西欧人に対する怒りや軽蔑を助長してしまったかもしれませんが、それは本意ではありません。

世界に渦巻くヘイトや人種差別の解決にはお互いを理解することが第一歩だと思います。特に日本に住んでいると、日本の価値観が当たり前だと錯覚してしまいがちです。しかし全然違います。

ヘイトの裏にある言語化されない感情や基本的な世界観を知ることは、その機会が少ないうえに、大事なことだと思います。

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