小林賢太郎さんの解任で、日本でも「キャンセルカルチャー」という言葉が話題になっているようです。
アメリカをはじめとして全世界的に燃え盛っている「キャンセルカルチャー」とは何か。アメリカ在住の筆者が例を交えて解説します。
キャンセルカルチャーとは
Cancel cultureとは、あら探し&バッシングを繰り返す社会的なトレンドのこと
「キャンセルカルチャー」は、SNSの広がりを背景に生まれました。炎上が終わると次のターゲットに移り、祭りは際限なく繰り返されます。
- 有名人や公人の「ほんの少しの過ち」や「一部の人を不快にさせる言動」をあげつらって、
- それを理由として仕事を中止させたりして社会的に抹殺し、
- その人の業績の価値まで否定されたりする社会現象
キモは、業績や作品などのその人の本来的業務の価値とは関係のないポイントで叩かれること。過去の言動が掘り返されることもあります。
Mr.ビーンで有名なローワン・アトキンソンさん(イギリスのコメディアン)は、
キャンセルカルチャーは中世の魔女狩りのようなものだ
と述べています。
”Woke”なひとびと
キャンセルカルチャーの土台となったのが”Woke movement”だと言われています。
社会問題や人権に配慮しない前時代のカルチャーに批判的な、意識の高い人を指します。
そういえば、ブッダも「目覚めた人」という意味ですね。
Woke自体は必ずしも悪いことではありませんが、批判が度を超してしまったとき、炎上と「キャンセル」を生む原動力になってしまいます。
キャンセルの実例
アメリカ
リチャード・ドーキンス
大ベストセラー「利己的な遺伝子」で著名な学者。イスラム教への差別的ツイートが炎上し、登壇イベントをキャンセルされました。
it’s quite apparent that at present the most evil religion in the world has to be Islam
「現在、イスラム教が世界中で最も邪悪な宗教であることは明白だ」
結構ひどいツイートですが、とにかくこれが炎上し、そのために講演をキャンセルさせられました。なお、彼自身は無神論者です。
J.K.ローリング
言わずと知れたHarry Potterの著者です。Kindle Unlimitedでも読めます。
英語圏では、生物学的女性のことを
と言ったりします。トランスジェンダーの人でも疎外感なく使える、男女の区別を示す言葉です。
JKローリングはこれを揶揄して、「『生理のある人』ね。昔はこういう人を示す言葉があったと思うけど、何だっけ?」などとツイートしたところ、トランスジェンダー差別だとして炎上し、不買運動が起きました。
リンカーン
リンカーンは奴隷解放宣言を出した偉人ですが、大陸横断鉄道を建設してネイティブアメリカンを故郷から追い出し迫害した人でもあります。悪名高い”The long walk of Navajo“もリンカーン在職期間のこと。
200年以上経った今になってリンカーンの功績を見直し、公的な建物から名前を削除する動きがあります。
ジーナ・カラーノ
政治的意見が違うからと言って人を嫌うのはやめよう
とツイッターで呼びかけたところ、なぜか炎上してディズニーの仕事を失いました。
「政治的意見を投稿したことで人を嫌うな」という政治的意見によって自身が炎上するという、皮肉的な出来事です。
日本での実例
ピエール瀧さん
薬物使用で逮捕され、出演作品の上映や映画全てがキャンセルされました。
小林賢太郎さん
23年も前の発言が掘り起こされ、オリンピックの演出から解任されました。元相方の片桐仁さんにも波及し、ウェブ上で出演CMを削除されています。
東出昌大さん
2020年に不倫が報じられ、コマーシャルが打ち切られています。
山口達也さん
女性関係の事件が報じられ、司会番組は終了、全番組の出演キャンセル、CM中止、さらにジャニーズ事務所が契約を解除しました。文字通り芸能界から抹消された状態が続いています。
チュートリアル徳井さん
税金に関する報道によって、ドラマの放送が中止され、Netflixの番組「テラスハウス」も降板しました。
日本では、単純な違法行為/プライベートな出来事でもキャンセルされてしまうようだ。実は既にキャンセルカルチャーがだいぶ進んでいるのでは?
キャンセルカルチャーの問題点
なぜキャンセルカルチャーが問題かというと、次のような理由からです。
- シンプルに、厳しすぎる
- 萎縮効果
- 全ての人を傷つけないことは不可能
- 意見の多様性がなくなる
厳しすぎる
たった一度の「悪いこと」で、その人の全てを否定するのは、単純に厳しすぎます。自分も同じ立場にならないとも限りません。
もっと良くないのは、反省して成長する機会を奪ってしまうことです。薬物中毒のケースでは、そのせいで仕事を失い、ますます現実から目を背けてクスリに頼りたくなってしまう環境を作り出してしまいます。
萎縮効果
ドーキンス博士のように業界の大物がキャンセルされるのは、若手にとって見せしめの刑になります。
あんな風になりたくない
と、こじんまりしたツイートしかしなくなるでしょう。SNSは、有名人のつまらないツイートと、失うもののない人による暴言で溢れていきます。
全ての人を傷つけないことは不可能
生き物を食べるし、人を振って傷つけることもあります。でもそれは当たり前で、命をくれた家畜には感謝し、別れた相手には幸せを願えばいい。いじめのように悪意あるケースは別ですが、動いた結果他人を少し不愉快にさせたとしても、仕方のないことです。
それに、みんなが文句を言わない発言しかできないなら、尖ったところの無い、窮屈で退屈な世界になりそうです。全てを肯定するしかないなら、成長や改善はありません。
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