英語で見る東京オリンピック|小林賢太郎の解任劇を海外はどう報じたか【海外の反応】

森さん、佐々木さん、小山田さん、今度は小林さん…運営陣が次々と辞めていくけど、これって海外からはどう映ってるんだろう?

小林賢太郎さんが開会式前日に解任されました。アメリカでも日本の紹介ビデオ「日本の形」などで一部の人に知られており、このニュースは報じられています。

日本では「許されない発言」という論調で報道されているようですが、英語メディアの反応はより中立的な気がします。むしろ問題が続出している東京オリンピックの運営のあり方に関心が集まっています。

この記事ではアメリカ在住の私が、小林さんの解任に関する記事を引用しつつ、英語圏の反応を紹介します。

一般人は小林さんにかなり同情的です。この点は記事後半でRedditのポストをご紹介していきます。

英語表現の解説も挟んでいるので、知らない単語を記事中でチェックしながら最後まで読んでみてください。

主要メディアの報道

各社とも、問題となっているセリフの抜粋、橋本聖子氏らの批判コメント、小林氏の謝罪コメント、ユダヤ人団体SWCの非難コメントを載せています。

問題となったジョークについては安直な評価や批判はせず、「伝えられるところによると、ホロコーストをジョークにしたそうで…」と伝聞にとどめて紹介しています。例えば、BBCの記事ではこんな感じ:

In the sketch Mr Kobayashi turns to his colleague, referring to some paper dolls, saying they are “the ones from that time you said ‘let’s play the Holocaust’“, according to AFP news agency.

Japanese Prime Minister Yoshihide Suga described the comments as “outrageous and unacceptable”.

AFP通信によると、この寸劇において、小林氏はもう一人に対して、紙の人形を参照しながら、「あなたが『ホロコーストごっこをしよう』と言った時のものだ」と述べているそうです。

日本の菅義偉首相は、この発言を「言語道断で受け入れがたい」と表現しています。

言葉や文化の壁があるので、どれだけまずい発言だったのかは自分達には評価できないが、「日本人が許されないと判断した」のだから、きっとアウトな発言なのだろう、というスタンスの慎重な表現になっています。

ほぼ全ての記事で、小林氏一人の問題に矮小化せず東京オリンピック自体の問題に寄せて論じています。

ここでは中立的な記事を1つ、擁護的な記事を1つ、批判的な記事を2つ紹介します。

The Guardian

The Guardian 2018
ガーディアン紙は中立的な書き方をしています。

問題となったセリフ “let’s play massacre the Jews” をただ切り取るだけでなく、コントの流れを次のように説明しています。

The 1998 skit, made when he was one half of the Rahmens comedy duo, was a parody of a popular TV educational programme and showed Kobayashi and his partner recounting a discussion with their producer about ideas for the show using paper cutouts of human figures.

1998年にお笑いコンビ「ラーメンズ」の片割れとして彼が出演したこのコントは、テレビの人気教育番組をパロディ化したものだ。小林氏と相方が番組のアイデアについてプロデューサーと議論する様子を、人の切り絵を使って再現していた。

さらに、批判サイドだけでなく擁護サイドのコメントも載せています。

批判:SWCコメント

The Simon Wiesenthal Centre, a US-based Jewish human rights organisation, condemned Kobayashi for making “malicious and antisemitic jokes”.

アメリカのユダヤ人人権団体であるSWCは、小林氏が「悪意的な反ユダヤ主義的ジョーク」を言ったと非難しています。

an antisemitic joke: 反ユダヤ的なジョーク
antisemitic [反ユダヤ主義の] ← semitic [セム語族の]の派生形。

セム」はキリスト教の聖書におけるノアの息子、「セム語」とはヘブライ語に関連する中東一帯の言葉を示します。

擁護:茂木さんコメント

茂木健一郎さんのコメントをかなり長めに引用しています。

“He has never advocated discrimination, he has always been considerate of minorities and he himself is a really wonderful, loving and considerate person. So, this particular clip that surfaced within the last few hours is inappropriate … I wish he hadn’t done that, but anyone can be careless for a brief moment.”

“the comedian did not deserve to be vilified for a brief comment made more than two decades ago”

「彼はこれまで差別を唱道したことはなく、常にマイノリティに配慮してきましたし、彼自身も素晴らしい人、思いやりのある人物です。ここ数時間で掘り出されたこの映像は不適切です…そんなことをしなければよかったのですが、でも、誰でもほんの一瞬、不注意になることはあります。」

「二十年以上も前の短いセリフのせいで悪人とされるべきではない」

The Article

The Articleは、コメディアンの正しい役割とは何か?という観点から、小林さんを強く擁護しています。

I have no doubt that some found his “joke” distasteful. A lot of jokes are in bad taste — questioning the ethics and social mores of contemporary society. In order to challenge and stimulate debate you need to risk offending people. …

What you don’t do is fire someone because you don’t agree with what they say, or in this case said over twenty years ago.

ジョークを不愉快に感じた人がいたことは間違いありません。多くのジョークは、現代社会の倫理観や社会通念を問うような悪趣味なものです。議論を挑み、議論を喚起するためには、人を不快にするリスクを冒す必要があります。(略)

人の発言に自分が同意できないからといって、その人を解雇することはできません。このケースでは、20年以上も前の発言に。

つまり、コメディーというのはただ人を笑わせるためだけのものではない。

社会を風刺して、みんなが当たり前と感じている常識を問い直すきっかけであって、観た人に何か考えさせるものであるはずだ。そのような主張だと受け取りました。

このような考えに立っても、悪意的に人を傷つけるようなジョークは良くないでしょうが、社会問題を揶揄することは何ら問題ない、むしろジョークの本質であると言えます。

Washington post

The Washington Post logo
ワシントンポスト紙
は日本に対してだいぶ手厳しい。

問題の発言を紹介したうえで、過去の日本の男性リーダーによる差別的な言動の数々を取り上げ、”Unity in Diversity”という東京五輪のスローガンを皮肉っています。

Another ouster of a person involved in staging the Tokyo Olympics — this one over an antisemitic joke more than two decades ago — is the latest incident in which the Games have exposed uncomfortable truths in a country where many feel discrimination often passes without consequence.

「20年以上前の反ユダヤ的なジョークが原因で、東京オリンピックの運営に関わった人物がまたしても解任された。これは、「差別が見過ごされることが多い」と多くの人が感じる国(注:日本のこと)において、オリンピックによって不愉快な事実が露呈された一連の出来事のうち最新のものである。」

日本で差別が見過ごされてきた事例として、次のような事実を列挙しています。

  • 日本ではいまでも多くの差別があって、発言者が咎めを受けることはない。
  • 麻生首相(当時)はヒトラーを礼賛し、低出生率を女性に帰責する発言をしながら、今でも職に就いている。
  • 5月には政治家が自民党の会合で「LGBTの人は種の保存に反している」と述べて己の無配慮を露呈した。
  • ジェンダーギャップランキングは世界120位で、主要先進国7ヶ国中最低である。

Reuters

Reuters Logo

ロイター通信は小林氏の解任自体は掘り下げず、”a series of embarassments for the Tokyo organisers”「東京五輪の運営者にとっての一連の恥さらし」がまた一つ増えた、という文脈でまとめています。

次に引用するのは、東京五輪が「PR disaster」となった旨のあるPR関係者のコメントです。

“Tokyo 2020 was supposed to be a global platform for the launch of a new Japan facing an international future with confidence. Instead, what we see here is the legacy of the old Japan’s insularattitudes mired in past prejudices and dated stereotypes,” he said.

「東京2020は、自信を持って国際的な未来に立ち向かう新しい日本を立ち上げるための国際的な舞台となるはずでした。しかし、代わりに私たちが目にしているのは、過去の偏見や時代遅れの固定観念から抜け出せない、古い日本の偏狭さの遺産です」

insular:[視野の狭い、島国根性の]
mire:[沼にはまらせる]、mired in ~:[~にはまり込む、~から抜け出せないでいる]

一般人の反応

一般の人は、この解任にかなり疑問を抱いているようです。

解任までされたんだから、かなりひどい発言だったんだろう

と勘違いしている人は多いようですが、それでも「20年も前の発言を掘り起こして処罰するのはおかしい」という意見が大多数です。

いろいろな考察があって興味深いので、いくつか紹介します。

Reddit

Reddit logo

 

解任の理由としては古すぎるんじゃない?
誰だって少しのミスはあるよ。

古すぎる、昔の過ちは誰にでもある、という意見

25年も前のことを掘り出したの?組織委員会が彼を気に入らなかったとか、スケープゴードにしたかっただけなんじゃないの。

日本は海外の反応を気にするがゆえに過剰反応したのだ、という意見

多分日本人は、これが西欧社会で問題になると思ったから解雇したんだろう。国のイメージを心配していて、こんなものが問題にならないことくらい西洋人はちゃんと分かってるってことを知らないんだろう。

三行で:日本人は西洋のキャンセルカルチャーを重要視しすぎ

TLDR:[要約]。Too long; didn’t read.の略。「『長すぎる、全部は読みたくない』という人はここを読んで」という意味。

Cancel culture:「キャンセルカルチャー」 炎上の火消しのために、その人に関連する商品などを全てキャンセル・無かったことにする・取り消すこと

ブラックユーモアは悪くない、という意見

これはオリンピックのせいだと思う。
本来なら騒がれないようなことでも、世界中のメディアが注目しているから、海外でイメージダウンになることはとにかく全部消してしまおうと躍起になってるんだろう。

過剰反応じゃないかな。特に、明らかに被害者を嘲笑することがコントの趣旨でないのなら、コメディで特定のトピックに触れちゃいけない、なんて考えには同意できないよ。イギリス人としては、こういうダークなユーモアは普通だよ。

これに続けて「その前に辞めた作曲家のケースは別だけどね」とも述べています。(それにしても、イギリスなら普通、というコメントの説得力がすごい)

彼の謝罪コメント、これは未来の文化の地獄絵図だよ。
誰も不愉快にさせないエンタメとかコメディーなんてものは、人に考えさせることはできないし、考えなしの消費に待ったをかけることもできない。

価値のあるコメディーは人を不愉快にさせるものだ、という意見です。

付言しておきたいのは、日本のテレビの「お笑い」は弱者を笑いものにしがちですが、西洋のコメディは主に権力者を笑いものにします。

この人が言っているのは、そういうことです。

権力者を笑いものにするアメリカのコメディーに興味がある方には、Netflixで観られる「Patriot Act」がおすすめだよ!

原文(ラーメンズのセリフ)を見た人たちの反応

問題となっているコントのスキットを翻訳して、「ひどい揶揄だった」という誤解を解いてくれるコメントがありました。ホロコーストを賛美するのではなく、むしろ「ホロコーストを賛美する頭のおかしい人のセリフ」として描いていることが分かります。

以下はそれに返信するコメントですが、完全に

解任はやり過ぎっしょ

という流れになっています。

正直言って、これそんなに悪くないんじゃない?ホロコースト賛美じゃないし、ただのジョークじゃん。確かに敏感なトピックだけど、ナチ・ヒトラー・ホロコーストのブラックユーモアなんて西欧ではよく見るし、それで出演取消なんてならないじゃん。

 

「そんなに悪くない」?いや、ちっとも悪くないよ。この台本を見る限り、明確に悪いアイディアとして提示されているし、ホロコーストを軽視するようなものでは全くないよ。今回のオリンピックについては恥ずかしい出来事や論争がたくさんあるのは知ってるけど、これはナンセンスだ。

 

こんなもん、「空飛ぶモンティパイソン」に比べたらなんてこと無い

モンティ・パイソン(グレアム・チャップマン)はイギリスのコメディアン。

↓の動画を観ればかなりどぎついジョークだと分かりますが、こんなモンティパイソンでも、ロンドン五輪では開会式に出ています

JapanTodayの記事に対する読者コメント

問題が相次いでいるのは、日本自身による一種の自傷行為では?という意見

If the accusations are accurate…you have to wonder if this isn’t some kind of subconscious self-sabotage of the games.

Covid cases in the village, chaos at the airport, the IOC people being subjected to a totally different set of standards to the people of Japan, one of the composers quitting, and now this?

This would sink any normal sporting event.

「これってある種の、無意識的な、オリンピックに対する自己破壊的行動なんじゃない?

コロナ件数の増加、空港での混乱、日本人とは全く異なる扱いのIOCメンバー、作曲家の辞任、そして次はこれ?

これじゃ、どんなイベントだってダメになって当たり前だよ。」

self-sabotage:[自己破壊的行動、自分で目標をダメにしてしまうこと]

Self-sabotageとは、英語圏ではよく耳にしますが、日本語でぴったりくる概念が無い言葉の一つ。

低い自尊心自信のなさが原因で、目標を達成できない原因を自分で作り出し、達成できなかった言い訳にするという不健全な心理作用を表します。

ジョークは何でも対象にしてよいはずだ、という意見

So a comedian makes a joke and is admonished for it over 20 years later? Comedy is just an art form that jests at how ridiculous our existence is. A world in which we cannot joke about anything is a cold bitter place full of grey shadows.

「コメディアンがジョークを言って、20年以上も経ってから非難されるわけ?コメディってのは、人間の存在がどんなに馬鹿げたものかを笑い飛ばす芸術でしょ。何でもジョークにすることができない世界は、灰色の影に覆われた冷たい苦い場所だよ。」

まとめ

多様な観点から報じられており、多くの論点があります。ユダヤ人の関係団体が手厳しく批判しているのは当たり前としても、それ以外の主体は意外と冷静な目で見ているようです。

それに比べて日本のメディアは一様に批判的で、意見の差というものを見いだせません。

和を重んじる文化の影響かも知れませんが、首相がひとりの人を強く非難し、しかもその内容に賛否両論あるはずの今回のような公的な問題においては、政治的な視点、芸人のあり方についての意見など、様々な意見があるはずです。なのにどうしてそれが表に出てこないんでしょうか。そもそも、ユダヤ権利擁護団体に通報して即解任したという経緯自体がかなり疑問です。処分の適否をちゃんと日本人が検討したのでしょうか。

もし、日本に意見をhold backしないといけないような風潮があるのなら、これってかなり危ないサインでは無いでしょうか?民主主義なら、どんな意見も表に出せるはずですから。

コメント

  1. ピクルス より:

    国内では一連の事を「考えてみる」世論はなく、終わった話のようです。
    アメリカで様々な思考(?)がされている事に、アメリカって健全…と感じました。
    日本ではこれから益々、触れられないタブーと優しい意見しか口にできなくなりそうです。

    ワシントン・ポストの記事は日本の報道そのまんま…に感じます。世界のランキングを取り上げては、最低から2番目とか、G20で最下位とか喧伝。一方、「移住したい国」ランキングは見ないです。たまたま、ネットニュースで見つけましたが、一向に世間には知られず。

    セルフ-サボタージュ。。。なるほど。でもどちらかというと、無理やり報道によって「自信をなくせ」と思わされ、「低い自尊心」を植え付けられている気がします。
    そのうち、頑張った選手をキャンセルカルチャーの餌食にしないか心配です。

    海外の反応記事をありがとうございます!!

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