映画「憲法修正第13条」のあらすじをてっとり早く知りたい。
13thを観た!面白かった!内容を復習したい!
という方へ。
日本では、アメリカ的な黒人差別は全くない、と言ってよいでしょう。
多くの日本人は、なぜ今になって反人種差別がもりあがるのか意味が分からなかったり、BLM運動をすこし冷めた目でみているのではないでしょうか。
映画「13th」は、アメリカでの黒人差別の実情を、過去の経緯も踏まえて分かりやすくデータを交えて説明するエミー賞受賞作品です。非常にためになったし面白いドキュメンタリーでした。
この記事では「13th」のあらすじを振り返ります。
- 現代アメリカでの「黒人差別」の意味が分かる
- BLM運動の歴史的経緯も踏まえて手軽に知ることができる
という内容になっています。
BLMと映画「13th」の関係
BLM(Black Lives Matter)は、「黒人の命をないがしろにするな」という意味。
黒人が白人警官に殺される事件が相次いだことから盛り上がりました。
日本人が知らないアメリカ社会の側面として、黒人=犯罪者・危険というイメージがあり、特に警察は白人よりも黒人に厳しい目を向けます。
データが物語っています。
- 25~29歳の黒人男性の死因第6位が「警官による暴力」(出典)
- 同じ犯罪を犯した白人に比べ、黒人が刑務所に送られる確率は5倍
- 黒人男性の4人に1人が一生のうちに一度は刑務所に入る
このように、現代のアメリカでの人種差別とは、黒人の犯罪者化という形で現れているのです。
この映画のタイトル13thは、奴隷労働の禁止を定めた憲法の条文です。
刑務所と奴隷がなんの関係が?と思われるかも知れません。
実は、13条では「刑務所に入った囚人を除いて」奴隷労働が禁止されています。
つまり刑務所に入った人間は、奴隷として労働させることができるのです。
現代アメリカに黒人囚人が多いのは、奴隷解放後も黒人を奴隷として使い続けるために修正13条を悪用して黒人を犯罪者に仕立て上げた歴史があり、そのシステムが今も残っているから、なのです。
これが、映画「13th」のメインメッセージになります。
どうしてこうなってしまったのか、本編では過去を振り返りデータを示しながらわかりやすく説明します。
主な点を見ていきましょう。
奴隷解放の後も黒人は自由にならなかった
奴隷がアメリカ南部を支えていた
アメリカの南部は農業が盛んな地域です。
農業は人手が必要です。奴隷がいれば給料を払う必要がないので作物を安く作れます。南部の経済は奴隷が支えていました。
これに対して北部はNYなどを要する大都市が多く、奴隷はそれほど必要ありません。むしろ奴隷制度を嫌っていました。
奴隷解放で大ピンチ
さて、南北戦争が起こり、勝った北部は奴隷制を廃止します(1865年)。
南部は大ピンチ。経済は危機に瀕します。これまで払ってこなかった給料をいきなり払わなくてはいけなくなったのですから。
南部は、どうしても奴隷に代わる労働力が必要でした。
そこで、憲法修正13条を利用して、囚人(黒人に限らない)を刑務所から安くレンタルして奴隷的な労働力に使うようになりました。
しかしそれでも足りません。
“Chains of Slavery” by xomiele is licensed under CC BY-NC-ND 2.0
自由契約で奴隷を確保
そこで南部の白人たちは、黒人の貧しさに漬け込んで、終身奴隷となる契約を結ばせることを考えつきます。
奴隷化した黒人は自分のところで不要となっても解放されません。他人に、レンタルして死ぬまで金を産ませます。
追い討ちをかけるように、このころ黒人自由化への反感からKKKも生まれ、リンチ殺人が爆発的に増加しました。
このように南部の黒人は、奴隷解放後も自由にならないばかりか、死の危険にさらされていたのです。
黒人たちは死を賭して南部から脱走し、やがてアメリカ中に広がっていきました。
黒人=犯罪者化の時代
市民権運動の盛り上がり(1960’s)
迫害された黒人たちは、自由を求めて政治運動を活発に行うようになっていました。
1960年代にはジムクロウ法(人種隔離)が廃止されるなど、一定の成果を挙げました。(市民権法、投票権法の成立。)
※余談ですが、日本人も黒人と同じカテゴリで人種隔離の対象でした。
政治活動の犯罪化
アメリカの白人はこれにおびえ、政治活動を犯罪とすることで応戦しました。
ニクソン・レーガン大統領の「法と秩序」(ロー&オーダー)政策です。
政治活動は「秩序」を乱すので、厳しい「法」で対処する。つまり、刑務所に送るということです。
- 黒人=犯罪者
という現在に残る負のイメージが、このころ定着していきました。
警官に殺される黒人たち
犯罪処罰が厳しくなる(1970’s)
1970年代はベビーブームの時代です。
人口と犯罪の数は比例します。ですが時の政権は、犯罪件数と犯罪率をまぜこぜにして、治安悪化を現実以上に印象づけます。
ニクソン大統領は犯罪を厳しく罰する政策で人気を集めます(War on Crimes)。
その結果、
- 薬物や万引きなどの軽い罪でも刑務所にいく人が増えた
- 黒人に多い種類の犯罪が特に厳罰化された
ということが起きました。
“In handcuffs on Pandora” by ngawangchodron is licensed under CC BY-NC 2.0
黒人が罰せられやすいシステムの誕生
黒人に多い種類の犯罪とは、例えばコカインの中でも、純度の高いコカインよりも、質の悪い「クラック」とよばれるもの使用を特に厳しく罰して貧困層を刑務所に送るなどです。
刑務所の人口は、1970年代の35万人から51万人に増えました。
さらに警察が恐怖を感じたら殺しても良いという法律(フロリダ州・スタンドユアガード法)ができるなど、警察の権限が強くなりました。
黒人=犯罪者というレッテルがあるので、相手が黒人であれば警察の「恐怖を感じた」という言い訳が通じやすくなります。
「警察に黒人が殺される」現代のシステムは、こうして出来上がりました。
「黒人=犯罪者」「黒人が警察に殺される」の枠組みが変わらないワケ
黒人ばかりが刑務所に送られる仕組み
- 刑事裁判を受けるには金がかかる
- 貧乏人は司法取引で罪を認めるしかない
- 高すぎて払えない保釈金
という主に3つの理由から、同じ犯罪をしても、貧乏人は刑務所へ行き、金持ちは罪を逃れたり釈放される、という現実があります。
犯罪が増えるほど儲かるアメリカ企業
アメリカは刑務所が民営化されています。
囚人の数が増えるほど利益が出る仕組みになっており、犯罪が増えるほど儲かります。
刑務所の運営会社の目的はあくまで利益ですから、彼らが犯罪者を増やすインセンティブを持つのはある種当然のことです。
人の行い自体を変えるのは無理です。
そこで、犯罪の定義を広げたり、重罰化することで、たくさんの人をできるだけ長期間刑務所に収容したいと考えます。
刑務所の運営会社(CCA)は強力なロビイング団体(ALEC)を組織して、政治家に莫大な献金をしています。
政治家に働きかけて、犯罪者を増やす政策を作り続けてもらうわけです。
民主的プロセスから黒人を追放する
さらに、一旦犯罪者になると投票権を失います。
奨学金を受ける資格も失い、家も借りにくくなります。
このように、一旦「犯罪者」になると、社会のどん底に突き落とされる仕組みが存在するのです。
こういう仕組みの全てが、現代アメリカの黒人差別なのです。
「構造的差別」という言葉で呼ばれています。
興味深いと思いませんか?
ぜひ、Netflixで13th本編もご覧ください。
【追記】
YouTubeで全編が無料公開されていたので、こちらでご覧いただけます。ぜひどうぞ。
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